事業所内・院内保育はアートチャイルドケア

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当社の理念

気づくチカラ

赤ちゃんに学ぶ、育つチカラ!

同志社大学赤ちゃん学研究センター教授
兵庫県立リハビリテーション中央病院
 子どもの睡眠と発達医療センター長
日本赤ちゃん学会理事長
(2014年2月草稿)
小西 行郎

胎児の発達

胎児は自発的な胎動と五感の出現によって発達します。なかでもとりわけ重要なのは、私たち大人があたり前すぎてつい忘れてしまいがちな“触覚”です。おなかの中で、胎児は「動いて」「触って」発達する存在であり、五感の中でまず最初にできあがる感覚である“触覚”によって、自らの身体や他者を認知するのではないかといわれています。一方、大人になるほどに「見て」「聞いて」「考えて」動くことが多くなります。胎児の行動と成人の運動にはそのような大きな違いがあるのです。
やがて自発的な運動は触覚によるフィードバックを受けて原初的な運動、つまり原始反射を獲得するようになります。無意識な反射は胎児期にその種類をほぼ完成させます。吸綴・嚥下、排尿や呼吸などの運動も胎児期には反射的な動きにみえます。
おもしろいことに、顔の動きも胎児期にほぼでき上がります。おなかの中で泣いたり笑ったりしているようにみえる表情は、感情が伴っていないという大きな違いはあるものの、出生後の表情のプロトタイプの運動といえるでしょう。
こうして胎児期には無意識に出現する運動がほぼ完成するといえます。しかしながら、こうした変化の中で睡眠覚醒のリズムの誕生は「意識」と「無意識」の二つの状態の出現ともいえ、それはバウワーらの“意識的な行動が出生直後にみられる”という主張を裏付けるものであるといえるでしょう。つまり生まれてきた赤ちゃんは、すでに意識的に動くことを知っているのです。

連続する発達 ~胎内から外へ

胎児が生まれてくる準備を着々としていた子宮の中は、スペースは限られ、重力の影響が少なく、かつ低酸素状態です。そこから高濃度の酸素と大きな重力にさらされる広い環境の生活に移行する中で、それまでの胎動は取捨選択され、必要な運動だけが残されます。とりわけ、進化の中で獲得されてきたと思われる仰臥位(あおむけ)の生活は、手の運動をより精緻化し、意識的な運動へと変えてゆくだけでなく、アイコンタクトを可能にするなど、他者との関係を作ってゆく最初の行動を誘発するものです。
胎児期につくられた原始反射はやがて意識的な運動へと移行し、そのパターンを増やしていきます。さらに、寝返り、お座り、ハイハイ、つかまり立ちなどの運動も、たった一つのパターンしかないということは少なく、正常な赤ちゃんはいくつかのパターンを持っています。こうした運動パターンの創造と多様性は、赤ちゃん自らが周囲に働きかけていく中で生まれるものといえます。
この時期、運動を誘発したり、制御するものは基本的に“触覚”であり、それも自ら触るというアクティブタッチ、能動的な触覚が重要となります。触覚は自己の身体認知だけでなく新しい運動を作るときにもなくてはならない感覚なのです。

意識的な運動の出現

出生直後より意識的な運動が見られるのは周知のことであり、新生児期から乳児期早期に無意識に動く原始反射などの運動は、やがて意識的な運動へと移行します。そればかりでなく、呼吸運動や吸綴・嚥下のような、無意識的にも意識的にもできる運動も見られるようになってきます。生後2~4ヶ月は、こうした運動の大きな変化点でもあります。

人と人をつなぐもの

自分と他者をつなぐコミュ二ケーションの手段を、赤ちゃんはいくつ持っているのでしょうか。これまで言われてきた母子相互作用については刷り込み現象や引き込み現象、あるいは条件反射など、ほとんどが他者からの働きかけに対して赤ちゃんがどうこたえるのかというものであり、そうした現象をもとに語りかけやスキンシップが重要であるといわれてきました。しかしながら最近の脳科学や発達認知心理学が解明してきたことは、赤ちゃんは自ら動き、認知し、愛着形成などを主体的にしているという事実なのです。そしてそのメカニズムが少しずつ解明されてきています。
たとえば、他者の行動を見たときに、自分がその行動をしていないにもかかわらず、あたかも自分がその行動をしているかのような脳活動が生後6ヶ月ごろから見られるということが発見されました。これはミラーニューロンと呼ばれています。ただ、同じ運動をしているという認知が共感をうみ出すとはいえ、その前提として自らがその運動をし始めていることが不可欠ということになります。こうしたことから、赤ちゃんも行動を共有することで相手と気持ちが通じるようになり、それは新生児模倣にも通じることではないかといわれ、他者と自分を繋ぐものとしての運動の重要性を明らかにしています。

基礎をはぐくむ

こうした研究が進み、赤ちゃんのすぐれた能力、“自ら育つチカラ”が明らかになってきましたが、負の部分もまた大きくなりつつあります。本来の意味から離れてイメージだけが先行してしまっている「脳科学」という言葉が踊り、さらにもっともらしく「脳を育てる」「育脳」といった言葉が育児や保育の中にまで氾濫するようになり、早期教育や超早期教育が叫ばれ、あざとくさまざまな育脳グッズや『なんとか法』が喧伝されている。一方で、子どもたちの健やかな発達を支える生活リズムや睡眠、食事などの育児の基本は乱れていることが多く、特に睡眠障害や偏食の問題は無視できない状態になっています。乳児期は子どもが育つための基礎を整える大切な時期であり、睡眠や食事のような日常のことほど、生きる力を鍛えるためには重要なことなのです。基礎工事のできていない土台の上に建物は建てられない、あるいは耕さない土には根がはらず芽が出ない。脳や愛着を視野にいれることも大切ですが、赤ちゃんが力強く育つためには、まず生活の基本となる、睡眠、食事、排せつといった“あたりまえのこと”の一つ一つが何より優先し、大事なのです。そのことを、一日の多くの時間を子どもたちと共にされる皆さまにはぜひともご理解いただきたいと願っています。

小西行郎博士

小西 行郎(こにし ゆくお)

1947年、香川県生まれ。京都大学医学部卒業、医学博士。小児科医。
専門は小児神経、発達神経科学。
京都大学付属病院未熟児センター、福井医科大学小児科、埼玉医科大学小児科、東京女子医科大学乳児行動発達学講座を経て2008年10月より同志社大学赤ちゃん学研究センター センター長/教授。2013年4月~2017年3月、兵庫県立リハビリテーション中央病院子どもの睡眠と発達医療センター センター長。2017年10月1日より理化学研究所ユニットリーダーを兼任。
2001年、赤ちゃんをまるごと考える学際的研究のため「日本赤ちゃん学会」を創設、2005年から理事長を務め、講演や研究に尽力した。2019年9月逝去。
著書に『赤ちゃんと脳科学』『発達障害のこどもを理解する』(集英社新書)、『子どもはこう育つ!おなかの中から6歳まで』(赤ちゃんとママ社)ほか多数。